映画音楽 近現代曲 コンサート探訪記

サントラファンが書く、米国オーケストラによる、映画音楽、近現代音楽演奏会探訪記録および所感。

バーナード・ハーマン編 その5: ホイットマン組曲-ラジオ朗読劇(世界初演)Whitman -Radio play (World premiere) 演奏 Post Classical Ensemble ( VOL.45 ;2019年6月1日 探訪)

コンサート曲目

Psycho:A Narrative for string orchestra 

Souvenir de Voyage ,

Whitman -Radio play (世界初演)

Post Classical Ensemble conducted by ANGEL GIL-ORDONEZ

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今回の探訪は、今年2月Vol.40でも取り上げた、米国作曲家バーナード・ハーマン作品の演奏会になる。ハーマン関係の演奏会としては、今年2回目、本探訪記でも、これで5回目になる。今年は、いくつかの新録音のリリースも計画されており、ハーマン作品に対する評価がますます高まっていると感じる。本演奏会のテーマは"Beyound Psyco" と銘打ち、演奏曲目もハーマン作品に絞った、ユニークな演奏会である。 演奏はWASHINGTON DC を拠点に活動するPOST CLASSICAL ENSEMBLE である。プロデューサーJOSEPH HOROWITZによる企画で、ハーマンを20世紀における、もっとも過小評価された米国作曲家と捉え、積極的にハーマンの隠れた名曲を演奏したいと宣言している、ハーマンファンにとって、誠にありがたい団体である。ハーマン以外にも、メキシコの作曲家Revueltasの映画音楽演奏会(ナクソスから新録音もリリース済み)を実施したり、CoplandやThomson の映画音楽をリリースしたりと、かなり通好みの選曲をする団体である。今回演奏会の曲目はPsycho:A Narrative for string orchestra , Souvenir de Voyage , Whitman -Radio play (世界初演)と、なかなか渋い選曲である。さらに演奏会場は、なんとWASHINGTON NATIONAL CATHEDRAL とDCの観光名所の1つになっている大教会である。即、探訪を決断しWASHINGTON DCに向かった。半分観光気分で最寄の地下鉄駅から徒歩で向かったのであるが、閑静な住宅街に突如、巨大な教会が目前に飛び込んできた。中に入ってみると、煌びやかな内装およびステンドグラス、教会内の音響、反響に圧倒された。(添付写真参照)教会といえば、ハーマン作曲のIT'S ALIVE やOBSESSIONのサントラは実際、教会で録音されており、演奏会場としては、なかなか面白い選択である。さて、オープニングはPsycho:A Narrative for string orchestra でスタートした。今回は、一般に演奏される組曲版ではなく、Narrative for string orchestra として、映画音楽の作品を積極的に指揮活動しているJohn Mauceriによる 編曲版の演奏になる。サイコに関しては、Vol.9で取り上げた様に、シカゴ響によるシネコンサートで全曲鑑賞の探訪済みであるが、今回は、よりコンサートでの演奏を意識た編曲になっている。さて演奏である。編曲の内容に関しては、組曲版と大きな差異を感じられなかったが、強烈な印象を残したのは、WASHINGTON NATIONAL CATHEDRAL での反響音である。これまでの感覚とは異なった印象を受け、新鮮な印象を残した。演奏が終了後、なんとハーマンの娘Drothy Herrmannが登場した。開口一番 ”サイコの様なホラー映画音楽を神聖な教会で演奏されるなんて、、”と、冗談を交えながら、ハーマンとヒッチコックのサイコに関するエピソードを紹介、最後にハーマン音楽を愛する、我々ファンに対する謝辞で締めくくっていた。もう少し、生前のハーマンに関するエピソードを聞きたかったのであるが、次の演奏が控えていたためか、早々に退場した。次の曲目はSouvenir de Voyage 別名Quintet for Clarinet and Strings である。本曲はすでにLP,CDともリリース済みであるが、演奏会の機会は少ない。弦楽を主体にしたハーマンの繊細なリリシズム(作品:”めまい”や”幽霊と未亡人”を連想させる)を楽しめる逸品である。小編成での演奏であるが、教会内のエコー効果もあり、大変楽しめた。終了後休憩に入り、後半は、当方、大注目の作品Whitman -Radio play (世界初演)が控える。本作は1944年Norman Corwinによるラジオ朗読劇を当時のままのオーケストラ編成、朗読(Whitman役、Corwin役、子供役)、電信効果音をコンサートホール(今回は教会)で再現する、驚くべき企画である。この様な企画を実現する、米国オーケストラとサポーターのパワーに感心する次第である。おかげで、ハーマンファンとしては、記憶に残る1大イベントになった。Walt Whitmanに関しては今年生誕200年を迎え、その記念行事も兼ねた演奏会になっている。前号Vol. 44で探訪したシンシナティー交響楽団によるヴォーン・ウィリアムズの声楽作品”未知の国へ”の台詞も、このWalt Whitmanの詩から引用されており、単なる偶然ではなかったと考えている。余談になるが、Whitmanは米国近代音楽に強く影響を与えており、米作曲家ハワード ハンソン(当方好みの作曲家)も、彼の詩を引用した作品をいくつか残しているほどである。実はこの朗読劇の音楽部分については、すでにCDでリリースされており、一部の楽曲は鑑賞は可能であるが、全曲を鑑賞できるのは今回が世界初演になる。Walt Whitmanの詩を引用する朗読劇は戦時中の米国民意識の高揚を狙った構成で、劇中は、ラジオ速報による戦時情勢を電信音とともに再現しており、真にユニークな演奏形態であった。特にハーマンの音楽は効果的で、CDでは聴けない貴重な楽曲も多数鑑賞できた。中でも、フランス情勢が論じられる際の朗読に絡めて、ラ マルセイユの引用が、演奏されたのは興味深い。マックス スタイナー等も映画音楽として効果的に引用していたが、ハーマンも負けず劣らず、巧妙に引用していた。ハーマンのラジオ朗読劇がコンサートホールで演奏される機会は極めて少ないが、当方、幸運にも、ハーマンの別のラジオ朗読劇(いわゆるメロドラム)の演奏会探訪を実現させている。(Vol 9 別記3) その演奏会では、1曲の長さが10分弱と比較的短い作品であったが、今回の組曲は30分に及ぶ長さで十分聞き応えがある楽曲であった。最後に、演奏会後のデイスカッションが実施され、ハーマンの音楽主体に活発な議論が行われ、根強いハーマン人気を感じ取れた。本作品は、ナクソスからCDリリースされるとの事で、今年はハーマンファンにとって、本当に収穫の多い年になりそうである。

 

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コンサート会場であるWASHINGTON NATIONAL CATHEDRAL

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どこかにダースベーダーの顔が造形されているそうだが、今回はウイリアムズの演奏会では無くハーマンの演奏会なので、パスする事にした。

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会場の雰囲気 ステンドグラスが美しい

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   教会内の反響音が印象に残る     

ヴォーン ウィリアムズ編その1: ”未知の国へ” Toward the Unknown Region  演奏 Cincinnati Symphony Orchestra シンシナティ交響楽団 ( VOL.44 ;2019年5月17日 探訪)

コンサート曲目

Ralph Vaughan Williams :Toward the Unknown Region 

Others

Cincinnati Symphony Orchestra

May Festival Chorus

Conducted by Juanjo Mena

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今回は、シンシナティー交響楽団による、特別企画”MAY FESTIVAL"の探訪になる。この企画は声楽作品、しかも混声合唱が必要な作品群の演奏に特化したユニークなコンサートである。(1ヶ月間にわたり7回の演奏会を実施する贅沢な企画になっている)前号”未知との遭遇シネコンサート”で言及した声楽の魅力と重要性について言及したばかりであるが、今回もその声楽がキーワードの探訪になる。今回着目したのは、英国の作曲家、ヴォーン・ウィリアムズの声楽作品”未知の国へ”が取り上げられていたからだ。ヴォーン・ウィリアムズに関しては、英国映画にユニークな作品群を残しており、これまでリリースされた、新録音により(特にBBC PHIL+Gamba指揮による,全3巻に及ぶ新録音は作品の内容および録音、演奏ともに出色しており、愛聴盤になっている)ほぼすべての映画音楽作品を楽しむことができる。英国映画音楽の新録音企画に関しては、過去たびたび実施されており、英国音楽界に名を残した、ウイリアム・オルウイン、マルコム・アーノルド、ウイリアム ウオルトン、アーノルド・バックス、コンスタント・ランバート、アーサー・ブリス,ベンジャミン・フランケル、等とともに、必ず取り上げられる作曲家の1人である。いずれの作曲家も1930年ごろから1970年頃までに活躍した世代で、米国においては、コーンゴールド、スタイナー、ワックスマン等々のハリウッド黄金期の映画音楽作曲家の活躍時期と重なることが興味深い。いずれの作曲家の作品も、米国の映画音楽と比べて遜色ない魅力的な作品が多く、栄華を極めるハリウッドを横目に、ハイレベルな作品群を、黙々と残した英国作曲家達に敬意を表したい。ヴォーン・ウィリアムズは老境に入ってから、映画音楽の作曲を開始しているが、興味深い作品が多い。49th parallel が有名かつ感動的な作品であるが、交響曲に引用された Scott of the antarcticもユニークな作品である。この作品では特に声楽が効果的に使用されており、声楽を上手く使う作曲家であると感じてきた。したがって、本格的声楽作品”未知の国へ”は、彼の声楽に対する手腕を楽しめる良い機会である。さらに、本曲のコンサートでの演奏機会は比較的少なく、探訪価値は十分あると考えた。本作は1906年作で米国の詩人Walt Whitman の作品を引用(興味深いことに、当方好みの米国作曲家バーナード ハーマンもWalt Whitman 作品を引用した、朗読付管弦楽作品をラジオ向けに残している。)したものであるが、管弦楽+声楽のゴージャスな響きは、まさに、コンサートホールで鑑賞してこそ、得られる貴重な体験になる。さて演奏である。10分強の小品であるが、100名を越す混声合唱による響きは圧巻。1906年作であるが、後に作曲された、40年、50年代の映画音楽作品の響きを、十分感じ取ることができる。Walt Whitman 独特の世界観による、未知の世界に赴く不安と恐怖に対する勇気を荘厳に歌い上げる、クライマックスには、癒される思いである。音楽から元気をもらった貴重な演奏会になった。

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ユニークな表紙を有する演奏会プログラム冊子     ホール内に垂れ幕も見える

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オーケストラ後方に大合唱団が見える




 

 

 

ジョン ウィリアムズ編その9 : 未知との遭遇 (全曲) Close Encounters of the Third Kind(Complete)  演奏 Cleveland Orchestra クリーブランド管弦楽団 ( VOL.43 ;2019年4月28日 探訪)

コンサート曲目

John Williams: Close Encounters of the Third Kind(Complete)

The Cleveland Orchestra 

Vinay Parameswaran, conductor

the  Cleveland Orchestra Chorus

Lisa Wong ,Chorus director    

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今回のコンサートは、未知との遭遇シネコンサートになる。演奏は、2月にローゼンマン作曲 理由なき反抗のシネコンサート(Vol 42参照) で見事な演奏を聴かせたばかりの、クリーブランド オーケストラである。名門オーケストラが、短期間に超大作、2作の(しかも当方好み)シネコンサートを提供してくれるとは、クリーブランドオーケストラの映画音楽に対する理解に深く感謝する次第である。(やってくれるぜ クリーブランドオーケストラ!!) 本コンサートは当方にとって、今年最大級のイベントと考えている。なぜなら、本作のシネコンサートは、従来のオーケストラによる演奏に加えて、男女混声合唱が必要で、大掛かりな準備が必要になるため、演奏の機会が極めて少ないと考えられるからである。したがって、全世界でも、まだ、ほとんど実施されておらず、米国ではサンフランシスコ響についで、第2回目の演奏会となる。ウィリアムズの作品中でも、かなり抽象的で前衛的な響きに特徴がある、当該曲であるが、その効果をさらに高めているのが、この混声合唱(特に女性合唱)なのである。これを、音響効果抜群のSEVERANCE HALLにおいて生演奏で鑑賞できるとは、真にありがたい事である。きっと想像を絶する音を体験できるに違いない。思い起こせば77年公開当時の音楽音源としては、音質イマイチで選曲数が少ない、サントラ盤しかなく、その後、チャールズ ゲルハルト、ナショナルフィルによる新録音およびズービン メータ ロスフィルによる新録音がリリースされた際、夢中で聞き比べた記憶がある。特にゲルハルト、ナショナルフィル盤は合唱がすばらしく、本曲における合唱の魅力を十二分に表現しており、その合唱効果をぜひ実際のホールで確認したいと考えてきた次第である。サントラ盤に関しては、1998年にコレクターズエディション盤および2017年には40周年記念盤で作曲されたほぼ全曲の内容を把握でき、さらに魅力的な楽曲および合唱部分が多数存在することがわかっており、全曲を通して鑑賞すると、これはもう1大交響(合唱つき)作品と捉えることができるほど、完成度が高い作品であると感じてきた。したがって、当方にとって、今回のコンサートは映像よりも、むしろ純音楽としての鑑賞に意識を置いて探訪を実施した。

さて実際の演奏会である。この企画は、1日限りのプログラムなので、会場はほぼ満員状態であった。今回の演奏会はシネコンサートを主催している、いくつかの米国団体の1つが関係していると考えられ、参加層を考慮してか、日曜のマチネーとなっており、客層は家族連れ、若年層も見られた。しかしながら、会場の雰囲気は、お祭り騒ぎ的特別興業ではなく、従来の純音楽コンサートと変わらず、品位を保っていた。これも、名門オーケストラとしての品格と理解している。 

いよいよオーケストラ後方に100名に及ぶ大混声合唱団が登場した(これはすごい!まさに圧巻)。そして演奏開始である。緊張感が高まり、超有名なオープニング(同じくSF作品である、 2001年宇宙の旅 で引用されたシュトラウスのツァラトゥストラを連想させるが、、)がホールに大きく響き渡った後、女声合唱が続いた。これだ!!待ちに待った響きである。ついに、ホールで聴けた!と感動しているうちに、砂漠での戦闘機、船出現場面と、ウィリアムズ一流の劇音楽がなだれ込んできた。当然ながらホールではCDとは異なった印象を受ける。ロイが最初にUFO遭遇し追跡を始めるあたりから、男声合唱も加わり、より前衛的な響きが多くなる。今回も前方席に位置したため、弦楽の響きは直接肌に伝っており、興奮を覚えるとともにCDでは聞こえてこない詳細が実感できた。その後、前半での最大の山場(サントラ盤でもエンドクレジット以外最長の時間を割いている)UFOによるバリーの誘拐の場面に突入した。ここは大いに期待していた楽曲である。引きずるような弦楽と異様な混声合唱がホール内に響き渡り、独特の雰囲気を作り上げた。凄い!鳥肌が立つような渾身の演奏である。この部分だけでも、参上して鑑賞したいほどである。この後、頑なにデビルズタワーを作りこんでいくロイを表現する弦楽にしばし魅了されるうち、ロイがデビルズタワーに向かう場面で休憩に入った。

後半は、ロイとジリアンが政府に追われるあたりから、サスペンスフルかつ軽快な管弦楽を堪能することができる。日ごろCDで聴きなれた楽曲であるが、ホールでは、この様に響くのかと、感心。その後 ロイとジリアンがデビルズタワーから政府実験施設を臨むシーンでは、合唱主体の楽曲が極めて印象的でホールでは、さらに明瞭に聞こえてくる。そして、母船が登場し、後半の山場の1つ、5トーンによる、UFOとのコミュニケーションの場面である。管楽器による演奏で極めてユニークな小品である。特にチューバの独奏に着目した。今回は完全に生演奏で、極めて難しい演奏であるが、母船のカラーシグナルの発色とタイミングずれなく演奏しており、感動した。当該曲をホールで鑑賞できる機会は極めて少ないだろう。母船から連れ去られた人々が帰還するあたりから、合唱に熱がこもり神秘的な管弦楽の響きは格別。ここで痛感するのは、ウィリアムズによる女声合唱の使い方の巧妙さである。前半は未知の存在への恐怖心、後半は異星人との交流の暖かさを同じ女性合唱で巧妙に表現している点に感心させられる。いよいよ、終盤最大の山場、母船が去る場面からエンドにかけて豪華絢爛きらびやかな映像に劣らない、すばらしい響きは、ここseverance hallでは臨場感抜群。そしてエンドクレジットに向かい、再度緊張感あふれるダイナミックな管弦楽と混声合唱で盛り上がり。最後は管弦楽による5トーンで静かに終演した(ちなみに今回のエンディングは”星に願いを”が挿入されていないオリジナルバージョンであった。自分的には、”星に願いを”自体は不要と考えるが、本作のテーマである5トーンを管弦楽でなく、合唱で締める事は大いに意味のある終了形態と感じている。)本作は合唱が極めて重要な役割を担っており、熱演したCleveland Orchestra Chorus に大きな拍手を送りたい。すばらしい演奏会であった。

 

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SEVERANCE HALL        今回演奏会の予告

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開演前に、リサ ウオン合唱指揮 混声合唱団が小ホールにて、リハーサルを実施していた。

 

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    100名を超える大混声合唱団がオーケストラ後方に見える
 

 

 

レナード ローゼンマン 編その1:理由なき反抗 (全曲) Rebel without a cause (Complete) 演奏 Cleveland Orchestra クリーブランド管弦楽団  ( VOL.42 ;2019年2月23日 探訪)

コンサート曲目

Leonard Rosenman : Rebel without a cause (Complete)
The Cleveland Orchestra
Scott Dunn, conductor
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今回のコンサートは当方にとって、待望のシネコンサートで、作品はレナード ローゼンマンの”理由なき反抗”になる。ローゼンマンに関しては好みの作曲家の1人で、これまでリリースされたサントラは、できる限りコレクションとして収集してきた。ローゼンマンの音楽は、師であるロジャーセッションズ(比較的、明解な作品を生み出す、米国作曲家達とは異なり、より前衛的な作品を多く作曲している。ただし、個人的には、好みの曲は少ないが、、)シエーンベルグの影響で、無調無機質なシュールな響き(いわゆる12音技法)を好んで多用しており、そのためか、よりSF、サスペンス映画に音楽を付けるケースが多い。当方の彼への興味も、そこからスタートしたと記憶する。しかしながら、登場人物の感情表現も卓越しており、TV作品にも効果的な劇音楽を提供しており広範囲な作品群を鑑賞できる。この点に関して、当方が始めて、痛感させられたのは、70年代のTVドラマ、ドクターウエルビーの音楽である。TV向けの劇音楽としては、コンバットに次ぎ多くのエピソードに音楽を付けているので、彼にとって、重要な作品に当たるだろう。初めてこのドラマを観た時、動きの少ない、医療ドラマにもかかわらず、難しい状況に置かれた登場人物の複雑な感情を巧みに表現する音楽が巧妙で、作曲は誰か?と考えていた。その後エンディングで聞き覚えのあるコーダが流れると同時に、ローゼンマンのクレジットが現れ、やはりそうだったかと、感心した記憶がある。(この特徴あるコーダはローゼンマンを象徴するもので、彼のほとんどの作品に使用されている。)この様に、ローゼンマンの作品は、音楽の動静の両方において、巧みに作曲されており、その点を、十分楽しめる傑作の1つが、今回の”理由なき反抗”に付けた音楽と感じている。ローゼンマンのキャリアーの中でも、最初期に作曲された、才気煥発かつ野心的な作品に仕上がっている。本来、純音楽のコンサート コンポーザーとして活躍していたローゼンマンである、本作品も妥協なく、完成度が高いため、コンサートホールでの演奏に十分耐えうるレベルであり、将来、単独の演奏会が企画されないかと、大いに期待していた次第であるが、やっとそれが実現したのである。しかも演奏は名門クリーブランドオーケストラで音響効果抜群のSEVERANCE HALL での生演奏は、サントラファンとしては夢のような企画である。本作品(”理由なき反抗”シネコンサート)は2016年に、今回の指揮者Scott Dunnがロスフィルにて世界初演してから、2回目の演奏になる。演奏機会の極めて少ない貴重な演奏会で本曲を選択した名門クリーブランドオーケストラの趣味の良さを感じさせる。当該作品で当方保有、愛聴のサントラ(新録音)としては、93年にWilliam Motzing 指揮Czech symphony、97年にJohn Adams(vol.36 でも言及した米国作曲家)指揮London sinfonietta による演奏がリリースされている。両盤とも演奏、録音はともにすばらしい。特にWilliam Motzing 盤は、ほぼ全曲が網羅されており貴重な録音である。William Motzing 盤の繰り返し鑑賞で全貌は把握していたが、今回の生演奏には度肝を抜かされた。あえて表現すると、驚嘆の1言に尽きる。ローゼンマンの楽曲の生演奏は新鮮で、当たり前ではあるが、CDとはまったく異なった音楽に聞こえる。さて演奏である。フルオーケストラとサクソフォーンによるシンフォニックジャズの滑り出しから、たたみかける様に、ローゼンマン得意の変速かつ前衛的表現によるジムのテーマがseverance ホールに響き渡ったと思った瞬間、一変して弦楽による、あの有名かつセンチメンタルなラブテーマ曲が流れた。この最初の数分で腰を抜かされた。それほどクリーブランドオーケストラが奏でるローゼンマンの音楽は格別に聞こえたのである。ローゼンマンの音楽は、ホールにおいて、こんなに凄い響きを有していたんだと、改めて感心した次第である。その後の目玉は宇宙を表現する神秘的な、プラネタリューム内での音楽だろう、ミクロの決死圏等、後の傑作SF音楽を予見させる、ローゼンマン真骨頂の音楽である。コンサートホールでの響きは、まさにプラネタリュームを連想させる共通性があり興味深い瞬間であった。本作での最大の山場は、ジムとバズによるナイフ決闘およびチキンレースの場面に付けられた、迫力の劇音楽である。急激な弦楽と管楽器群の咆哮が極めて複雑に絡み合う、疾風怒涛の演奏で、ホール内での響きは、まさに圧巻。後半は、オーケストラによる、うねるような弦楽による心理描写が秀逸な部分であるが、ステージ最前列に陣取ったおかげで、さらによく聞き取ることができるとともに、弦楽奏者が巧妙に裁いていく様子を観察できた。ローゼンマン一流の繊細かつ複雑な感情表現を十分堪能した後、プラトーが追われる迫力の音楽ではさらに複雑、変速的な緊張感を盛り上げる音楽が、ホールで効果的に響いた。そして、悲劇の終末を締めくくる音楽に。最後にローゼンマン特有の雄大なエンドコーダが会場内に、大きく鳴り響き、大きな感動とともに終幕した。ローゼンマンの音楽に惚れ直す、すばらしいシネコンサートになった。今回の指揮者Scott Dunnはなんと、ローゼンマンとリチャード・ロドニー・ベネットから作曲の教授を受けており、特にローゼンマンとの親交が深かったようである。今回の様な、すばらしい演奏を提供できたのも、弟子としてローゼンマンの音楽の魅力を十分熟知していたからに違いない。
PS :ちょうど本ブログ更新時、ローゼンマンが作曲を手がけた、ロボコップ2の長尺盤サントラ発売の情報が舞い込んできた。偶然の一致ではあるが、ファンにとってはうれしいニュースであるため、追記しておきたい。

 

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銘版の下に演奏会のチラシを置いてみた。   会場の雰囲気

 

 

ダニー エルフマン 編その1 : シザーハンズ 組曲 Suite from Edward Scissor hands   演奏 Kentucky Symphony ( VOL.41 ;2019年2月16日 探訪)

コンサート 曲目

Mason Bates : Mothership 

Fedre Grofe : Grand Canyon Suite

Samuel Barber : Concert for Violin op14

Danny Elfman : Suite from Edward Scissorhands 

 

Kentucky symphony orchestra  conducted by James R Cassidy

Sandy Cameron : Violin 

NKU Women's Chorus 

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今年は2月から3月にかけて、好みの米国作曲家作品に関する演奏会が各地で、重なり、選択に苦慮した結果、今回はケンタッキー交響楽団による演奏会探訪を実施することにした。 いずれも好みの米人作曲家である バーバー、グローフェに加え、ダニーエルフマンの作品が鑑賞できる非常にユニークなプログラムになっている。最大の魅力は、後半2曲である、バーバーのバイオリン協奏曲とエルフマンのシザーハンズ組曲が後半に配されており、その両曲のバイオリン独奏者として、サンディー キャメロンが登場するとの情報があったからである。サンディー キャメロンはエルフマンとのコラボを強めており、特に、彼女の演奏によるシザーハンズ組曲は世界各地で公開済みで,その躍動的奏法に唖然とした記憶がある。ダンサブルで派手なアクションから、クラシック系の奏者ではないと勝手に想像していたが、実際はそうでなく、正統クラシック系の奏者であると知り、さらに驚いた記憶がある。そんな中、彼女が演奏する、バーバーのバイオリン協奏曲とシザーハンズ組曲を同一コンサートで鑑賞できることは極めてユニークかつ興味深い。さて演奏会の内容である。第一曲は米国若手の作曲家メーソンベイツによる軽快な小品'Mothership"の後、グローフェによる定番グランドキャニオンである。彼の作品には、当該曲以外にも、ナイヤガラ、デスバレーの自然を描写したユニークな作品が多く、(残念ながら演奏の機会が極めて少ない)イメージを描きやすい点から、映画音楽との共通する所があり、興味のある作曲家である。今回の演奏では、オーケストラ背後に配置されたスクリーンに、組曲のテーマにあわせたキャニオンのフォトエッセイが映し出され、映画音楽的な演出が成されていた。実際本曲はディズニーの短編ドキュメンタリーのサントラに利用されているが、グローフェが本来、映画音楽として提供したものではなく、映像を後から合わせたもので、純粋な意味での映画音楽ではない。しかしながら映像をイメージしやすい音楽で、有名になった理由が理解できる。残念ながら、グローフェは映画音楽を2作しか残していないが、そのうち1作は50年代のSF映画ROKETSHIP X-M に音楽を提供しており、極めて興味深い。音楽はテレミンを使い、野心的な作品になっており、同時代に作られたSF映画Destination moon(リース スティーブンス作曲)やThe day the earth stood still (バーナード ハーマン作曲)と双肩を成す音楽になっている。当該曲は、グローフェにより組曲化および演奏会の計画があった様であるが、実現には至っていない。今後の新録音あるいは、演奏会に期待したい。後半の第一曲は、バーバーのバイオリン協奏曲でスタート。バーバーに関しては人気の作曲家ゆえ、演奏会の機会も多く、当方の好みであるため、本探訪記でも、すでに、Vol.36 でエッセイ第一番、Vol.40ではアダージョを取り上げており、今回で3回目になる。彼の音楽は繊細、優美さを有する一方、エネルギッシュかつ劇的な響きを有しており(バレー音楽、オペラも魅力的な作品が多い)個人的にも、その点ゆえに彼の音楽に魅了されてきた。当該バイオリン協奏曲も1,2楽章と3楽章の緩急対比が際立つ魅力的な作品である。本作品を、ダニーエルフマンの秘蔵子、サンディー キャメロンがどのように料理するのか興味深い。独奏をつぶさに観察するため、ステージ左前方に位置した。いよいよ、指揮者James R Cassidy とともにサンディー キャメロンが登場し演奏である。曲の作風から落ち着いた衣装での登場を予想していたが、実際は、かなり派手で驚いた、彼女のキャラを反映しているのだろう。演奏はある程度予想していたが、1,2楽章からかなり動きが激しくダンサブルで優美さよりも、その情熱、気迫を感じた。この点が、エンターテイナー奏者としての魅力であろうが、好き嫌いが分かれるのではないかと思う。技巧が問われる3楽章も、難なく、かつ、ダイナミックな奏法は曲にうまくマッチしておりバーバーの魅力を十分満喫できた。癖のある奏者ではあるが、実力派奏者であることは確かである。次にエルフマンのシザーハンズ組曲である。エルフマンの作品に関しては、映画音楽作品よりも彼の管弦楽作品(SERNEADA/SCHIZOPHRANA)に魅了され着目してきた作曲家である。彼得意の女性合唱をうまく使用した作品で、映画音楽で培ったテクニックとコンベンショナルな管弦楽を融合したユニークな作品である。大きく共感できるのは、彼が憧憬する作曲家としてバーナード ハーマンやショスタコ-ヴィチ等の現代管弦楽曲に傾倒している事を公言している点である。ポップバンドを率いてきた経歴からは想像しがたい事であるが、数々の映画音楽傑作を生み出してきた背景には、このような背景が大きく影響していたのであろう。さて演奏である。20名程度であるが、女性合唱団がオーケストラ背後に配され華やかな印象を与えている。本曲の魅力は、このコーラスによるところが圧倒的に大きいと思う。毎度の事ではあるが、映画とは独立に鑑賞しても癒される名曲であると痛感する。そして、サンディー キャメロンが、今度は、お決まりのシザーハンズをイメージした衣装に身を包み再登場。バーバーのバイオリン協奏曲演奏時よりさらにヒートアップした演奏を披露した。今回の舞台(小編成オケ)は小さく近くにいるオーケストラの弦楽奏者たちと極めて近接しており、接触しそうで、ヒヤヒヤさせる場面もあったが、無事終了し、会場を盛り上げた。そして、最後は女声合唱により静かに終演した。エルフマンに関しては、従来の既成概念にとらわれない、エルフマンスタイルの現代管弦楽曲の発信コンセプトを有している様で、最近リリースされた、新作のバイオリン協奏曲もその流れの1つの様である。キャメロンを独奏者として各地でツアーが、いくつか計画されており、機会があれば探訪してみたい作品である。今回のオーケストラ、ケンタッキーシンフォニーは地方のオーケストラであるが、サンディー キャメロンのような著名アーティストを招聘し、かつ、今回の様な魅力的なプログラムをリーズナブルな価格で提供しており、音楽ファンとしては、大変恵まれた環境と言える。

 

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大学キャンパス内のコンサートホール(Greaves Concert Hall) 

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会場の雰囲気(映像表示用スクリーンが見える)

 

 

バーナード・ハーマン 編その4 : モビーディック(短縮版) MOBY DICK (abridged) 演奏 Akron Symphony (VOL.40 ;2019年2月9日 探訪)

コンサート曲目

Barber :Adagio for Strings

Herrmann : Moby-Dick (abridged)

Others

Akron Symphony conducted by Christopher Wilkins
Timothy Culver, tenor
Brian Keith Johnson, baritone

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今回の探訪は,Akron Symphonyによる、ハーマンの声楽曲 モビーディックになる。演奏会は ”THE SOUND OF THE SEA”と海をテーマにしたコンサートで、定番であるドビュッシー”海”をプログラムの最後に配置し海洋に関する作品を、4曲取り上げて演奏する形式になっている。したがって、当該曲も、その範疇の1つとして、取り上げられたと考えるが、ハーマンの純音楽、しかも声楽作品が演奏される機会は少なく極めて貴重な演奏会であり、探訪の価値は十分あると判断した。ハーマンは声楽曲をいくつか残しているが、本曲はオペラ”嵐が丘”に並ぶ傑作で、自身指揮によるユニーコーン盤がリリースされた折には、早速入手、その劇的音楽に感動した記憶がある。これまでに幾度か演奏会が企画されていたが、いずれも、鑑賞の機会を逃しており、今回は何とか探訪し、ハーマンの迫力ある声楽をホールで鑑賞したいと考えていた。演奏会第1曲目は、ハーマンと同様、好みの作曲家、バーバーのアダージョが配されていた。当該曲と海洋の関係は直接ないが、オーケストラ背後のスクリーンには痛ましい海洋環境破壊の問題を定義するフォトエッセイが映し出されており、当該曲の有する悲壮感を共通項として表現したかったのであろう。悲壮感といえば、ハーマンのFor the fallenを思い起こす。曲想は第2次大戦戦没者を悼むものであるが、バーバーのアダージョに劣らない表現力を有する傑作だと思う。アダージョは戦争映画プラトーンのサントラにも引用され、さらに知名度が上がった名曲であるが、聴きくらべてみると理解できるが、両作曲家の特徴を良く反映している一方、ますます両曲の共通性を感じざるを得ない。ユニーコーン盤CDモビーデックのカップリング曲にはFor the fallenが収録されており、偶然の一致ではあるが、今回改めてハーマンの隠れた名曲に思いを巡らせる良い機会になった。第2曲目は、いよいよ、モビーディックである。カンタータであるが、予告にはカンタータの記載が一切なかったので、不思議に感じていたが、その理由が理解できた。実際は男性合唱を割愛し(テノール、バリトンの独唱のみ)、全体30分弱を切れ目なく連続演奏できる様、巧妙に編曲されていた。演奏時間はコンサート全体の約半分を占めることになり、今回のコンサートのメイン曲と考えてもいいだろう。ハーマン自身は承服しないだろうが、自分的には、コーラスのない本バージョンに極めて新鮮な印象を受けた。なぜなら、声楽者2名の独唱に抑えた方がハーマンの管弦楽の響きをダイレクトに楽しめるからである。結果的にハーマンが最初に想定していたオペラに近い形態になったと感じる。実際鑑賞してみて、生演奏+コンサートホールでの響きの凄さを改めて認識した、1930年代の作曲でハーマンの初期作品ではあるが、後に生み出されれる映画音楽の傑作を予見させる表現の数々はコンサートホールでは格別で感動を覚えた。最前列位置したので、独唱者および弦楽の響きの詳細を直前に感じ取ることができ、大変楽しめた。この短縮版は今後ますます演奏される可能性が高いと感じる。30分に渡り、ハーマン特有のダイナミズムとリリシズムを十分堪能し、ブラボーコールの連呼で前半の演奏会は終演した。今年2019年には、ハーマンの新録音企画として、黒衣の花嫁、CBSラジオの朗読用劇音楽(いわゆるメロドラム)がすでにリリース済みで、本演奏会を含め、ハーマンファンにとっては、幸運なイベントでの幕開けになっている。

 

 

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コンサートホールEJ Thomas hall

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   会場の雰囲気 オーケストラ後方にスクリーンが見える

Others

ショスタコ-ヴィチ 編その1:新バビロン (全曲) New Babylon (a silent film) Complete 演奏 Westerville Symphony (VOL.39 ;2019年1月27日 探訪)

    コンサート曲目

 Dmitri Shostakovich-New Babylon  complete film concert

 Westerville Symphony 、Peter Stafford Wilson, Conductor

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本年最初の探訪はショスタコ-ヴィチ の映画音楽シネコンサートになる。ショスタコ-ヴィチは、当方好みの作曲家の1人である。いや、好み以上の存在かもしれない、特に、彼の交響曲の数々は、繰り返し、繰り返し聴いても、新たな感動がこみ上げる、底知れない魅力に満ち溢れた音楽である事は確かである。苦難に満ちた人生経験から得られた、繊細、深遠かつ燻し銀の様な芸術は一見は暗く、難解で理解され難いが、多くの人々を魅了してきた事は事実であり、イデオロギーの垣根を超えて、米国、全世界で受け入れられ、現在も多くの演奏会で取り上げられ続ける事を考えると、その影響力と魅力は底知れない。この様に、当方の興味は交響曲から入ったのであるが、ショスタコ-ヴィチが数多くの映画音楽を残している事を知ってからは、彼の映画音楽を追い求めて来た次第である。思い起こせば、はじめて彼の映画音楽を知ったのは、ロジェストヴェンスキー、モスクワ・フィルによる70年代のLP盤による新バビロン組曲であったと記憶する。現在こそ彼の映画音楽の大半が新録音され全貌が判明してきたが、当時はほぼ皆無であり、すぐに飛びついた記憶がある。しかしながら、自分的には重厚な音楽を期待していたので、鑑賞して拍子抜けした記憶がある。新バビロンは彼の映画音楽第一作、しかも 弱冠23歳で手がけた作品で、前衛に傾倒していた時期の作品故、晩年期の多くの交響曲に見られる、重厚な響きは見出せるはずがない。もっともストーリー上、ニューバビロンで繰り広げられる、狂乱じみた販売を揶揄する音楽が冒頭から導入されているわけだから、当然の話でもある。ただし、最後期の映画音楽、ハムレット、リア王からは、重厚な響きを存分に楽しむことができ、特にハムレットの音楽は出色しており、米国映画音楽作曲家バーナードハーマンも生前、自身の新録音に含めているほどである。ただし、新バビロンが作曲された1929年には傑作交響曲3番(自分的には、晩年期の作品にはない魅力を感じる)も作曲されており、一概に敬遠する必要もないと、感じている。その後、2006年 STRONBELI指揮による新バビロン全曲盤がリリースされ、当該曲に関する、見方が変わった。先のロジェストヴェンスキー盤には含まれていなかった、数々の劇音楽による描写から、その後の交響曲、映画音楽に見られる響きの一片を感じ取ったからである。本演奏会のプログラムによると70年代、ショスタコ-ヴィチに新バビロンのスコア復元、演奏の打診があったが、彼は、当該曲の作曲が未熟故、頑なに拒否したと記録されている。また、別の話として、彼の初期の交響曲は無視してほしいと、周囲に吐露したとの逸話も聞いたことがある。自己の信念を貫く作曲家として、自身の初期作品にさえも妥協を許せなかったのであろうが、皮肉にも、彼の死後、初期作品の新録音もいくつかリリースされている。本人が生きておれば、承服していないであろうが、1作でも多く、彼の作品を鑑賞したいファンとしては、まことに有難いことである。さて演奏である。オーケストラ編成は29年当時と同じ小編成で、それに合わせ、コンサートホールは、小ホールであった。本来はオーケストラピットにすべて収まって演奏されると想定されるが、今回はステージ上スクリーンの前に配置されていおり、音響効果的には良いと感じた。今回の企画は英国のREALITY なるプロダクションが、フィルム復元を含めたシネコンサートのイベントを手がけている。新バビロン全曲のシネコンサートは極めて珍しく、今回の探訪を決断した背景でもある。STRONBELI指揮盤の収録と同様に全8幕の構成で画像が映し出されている間は、ほぼすべて音楽が付けられていた。やはり、はじめての映画音楽作曲故か、映像と音楽のバランスが不自然な部分も見受けられたが、フランス政府軍とコミューンの戦闘シーンや、ジャンの苦悩を描写する劇音楽は秀逸で画像とうまくマッチしていた。ショスタコ-ヴィチが得意とする既存曲の運用も効果的で、コンサートホールでは、その点が際立った。ラマルセイユの引用に関しては、マックス スタイナーがカサブランカで効果的に使用していたが、ショスタコ-ヴィチは、すでに、映画黎明期に、使っていた事になり、改めて、その手腕に感動させられた。古い映像ではあるが、1929年当時の映画館でショスタコ-ヴィチ の音楽がどのように響いたのか、(音質は当然、格段優れているはずであるが、、)追体験できる貴重な経験になった。

 

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コンサートホール Reily Auditrium 入り口にて

 

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 会場の雰囲気              演奏会のチラシ