米国オーケストラによる 映画音楽 近現代曲 コンサート探訪記

サントラファンが書く、米国オーケストラによる、映画音楽、近現代音楽演奏会探訪記録および所感。

VOL.9: 2017年 5月26日 探訪 バーナード ハーマン編 BERNARD HERRMANN PSYCHO WITH ORCHESTRA(COMPLETE)

 

BERNARD HERRMANN   PSYCHO  WITH ORCHESTRA(COMPLETE)

CHICAGO SYMPHONY ORCHESTRA CONDUCTED BY RICHARD KAUFMAN

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今回の探訪は、シカゴ響によるバーナードハーマン作品の演奏会である。ハーマンは、自己の芸術性に妥協を許さない音楽哲学を踏襲しており、また音楽を提供した映画の特異性からも、以前から興味を引かれ、自己の鑑賞歴の中でも重要な作曲家の一人となっている。10年ほど以前は、頻繁にハーマン作品の演奏会、新録音が続いていたが、最近は一段落した感がある。その中で、今回シネコンサート形式のサイコ全曲の演奏である。実は今回の演奏会は本来”北北西に針路を取れ”の全曲演奏であったが、技術的問題で(指揮者KAUFMANによる冒頭の説明によると、オーケストラと画像のシンクロに困難なところがあと釈明していた)急遽変更された経緯がある。当方知る限り、サイコ全曲および組曲の演奏会は世界各所で実施例が多いが、”北北西に針路を取れ”の全曲演奏会は極めて異例と思われる。当方10年ほど前に、北北西の組曲演奏会鑑賞(詳細は後に別記)経験はあるが、全曲演奏の鑑賞経験は無い。本作品は映画後半、マウントラッシュモアで繰り広げられるアクションシーンの音楽がドラマティックかつ効果的で、この部分をシカゴ響の金管、打楽器群で、ぜひ鑑賞したいと、楽しみにしていたので極めて残念である。せめて、”めまい”全曲(すでに、シカゴ響で全曲演奏済み)で代替してほしかった。しかしながら、サイコ全曲演奏をコンサートホールで、しかも、シカゴ響で体験できる機会も希と(実は、本曲に関しても、シカゴ響で演奏済みであるが、これも、鑑賞機会を逃がしている)考えられる。全曲の新録音は1970年代にユニコーンレベルでハーマン自身の指揮が最初と記憶する。それ以後いくつかの新録はリリースされており、弦楽による、恐怖表現の巧みさは実感済みであるが、映像+弦楽+コンサートホールの状況では、どのようなものなのか、確認する良い機会であった。自分でも驚いたのであるが、恐怖を駆り立てる音楽のはずであるが、それよりも、音響効果、演奏技術の相乗効果からか、映画音楽、劇音楽を超え、研ぎ澄まされた、極めて精妙な詩的な響きを感じ取った。シカゴ響の奏でる音は、いや、ハーマンのオーケストレーションの巧みさがそう感じさせるに違いないと思う。ちょうど、監督リドリー・スコットがゴールドスミスが付けたエイリアンの楽曲を極めて詩的だと表現していた、まさにその感覚である。練り上げられた音楽とは、例え恐怖表現であろうと、奥深さ、精妙さ、を有しており、これが感動を生み出す源と実感した。本作サイコは明らかに、音楽の領域でも、単なるホラー映画 を超越した芸術性を有している事は疑いない。ちょうど、演奏会前のレクチャー時、数々のシネコンサートを手掛けている、プロデューサーJohn Gobermanが登場し、弦楽のためのシンフォニエッタ-1935年作品からサイコ楽曲の素材が一部引用されている事について言及していた。(言及はなかったが、実際はさらに、その後のタクシードライバーのエンディングにも引用されている)当方も当該cd保有し、内容把握していたので、話があるのではと、想定していた。当該cdのライナーノートによると、35年当初、若年のハーマンはシエーンベルグやアバンギャルドに傾倒しており、その影響が、この作品に見られる。その抽象性が複雑な心理表現とマッチしたと推定する。

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当日は雨で、サイコの鑑賞には、最適?。劇中、マリオンが雨の中、車でベーツモーテルに向かうシーンを連想した。

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会場の雰囲気。弦楽のみ、スクリーンは、白黒。

 

 

別記: 今回のハーマン演奏会に関連し、10年ほど過去になるが、当方が参上した中で印象に残っているハーマン作品演奏会の感想を、いくつか記録に残しておく。古い情報であるが、その後、再演、新録音等されていないレアーな楽曲もあるので記録に値すると考える。

1.2007年10月6日

Lyn Murray  ; Suite from To Catch a Thief

Dimitri Tiomkin ; Suite from Stranger on a Tain

                         ; Suite from Dial M for Murder

Bernard Herrman ; Suite from North by Northwest

Detroit symphony orchestra conducted by Constantine Kitsopoulos

この演奏会はヒッチコック作品に主題をおいた演奏会になっており、ハーマンの北北西組曲が最後に配されている。この演奏会の特徴は、映画音楽関連のコンサートに良く見られる、複数映画の主題曲もしくは、2曲程度を、ごった煮的に並べる形式とは異なり、各映画から数曲抽出し、全て10分間程度の組曲形式に編纂しており、独立した音楽作品として十分鑑賞に値するレベルに仕上げていた事である。このような演奏会は、なかなか見られない、当方の自論は、ごった煮的演奏会では、芸術性のある作品の全貌を表現できておらず、軽音楽程度の印象しか得られないと考える。今回は3名の作曲家が担当した各映画から組曲を抽出演奏しており、十分納得できる構成になっている。表記の演目からもわかる様に、一番の目玉はティオムキンの作品が2作品それも10分程度の組曲で演奏される事であろう。Stranger on a Tain の組曲は、80年代ヒッチコックにフォーカスした新録がバレーズからリリースされてから(これは今でも愛聴している)いくつか、それと同様の新録がリリースされており、その中にDial M for Murderも含まれていたと記憶する。私的には、この演奏会がティオムキンの組曲作品を本格オーケストラで、しかも演奏会形式で鑑賞した、最初の経験であり、非常に興奮したことを記憶している。次に、ハーマンの”北北西の針路を取れ”であるが、本作は80年代からハーマン自身の組曲新録、ローリージョンソンの全曲新録を皮切りに新録が数多く実施されており、曲の全容は把握していたが、コンサートホール内で響の体感は格別であった。この組曲にもマウントラッシュモアでの音楽が配されており、最大の聴き場であることが理解できる。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        

 2.2008年1月19日

Elmer Bernstein ;The Magnificent Seven

Max Steiner ;Gone with the wind

Alex North ;Suite from Streetcar Named Desire

Bernard Herrmann ;Suite from Vertigo , Overture to Citizen Kane

Leonard Bernstein; Symphonic Suite Onthe Water front

Miklos Rozsa; Ben-Hur

Others

 Minnesota Orchestra conducted by Osmo Vanska

この演奏会は前述の如く、ごった煮感はあるが、当方好みの作曲家、ハーマン、ノース、バースタインの組曲をしっかり組み入れており、特に、ハーマンの”Vertigo”およびノースの”Streetcar Named Desire”組曲の演奏機会は、当時殆ど無く、貴重な体験である。私的には、”めまい”はハーマン作品の中でも出色の傑作と考えており、スコティー、マデリン間の情緒表現、魔夢を表現する緊張感と大団円を締めくくる、劇的表現等、正統オペラと比べても、十分伍する芸術性がある。(実際ハーマンはワグナーの楽劇トリスタンとイゾルデを意識して作曲していたとの事)オペラといえば、ハーマンは嵐が丘を完成させているが、この作品は、この演奏会が実施された、ミネアポリスに一時住みつき、ここで作曲した様だ。生前十分評価されなかった作品ではあるが、作品誕生の地で、その後、再演されたことは(2011年、ミネアポリス オペラで再演)興味深い。残念ながら、当方参上の機会を逸している。以前2007年に、クリーブランドオーケストラでも、演奏会が予定され参上する計画であったが、大雪で公演が中止となり、たいへん落胆した覚えがある。

 

 3. 2008年3月24日

Peter Child ; Down-Adown-Derry-A Fairly suite for Orchestra

George Tontakis ; Violin Concert No.1

Bernard Herrmann ;Melodram for narrator and orchestra  

                                 A Shropshire Lad , The City of Brass from The Arabian Night

                               Nocturne and Scherzo

                                 Overture to "North by North west"

Albany Symphony Orchestra conducted by David Alan Miller

 この演奏会が私的には、最も印象深い。何故なら、ハーマン作品でも、超レア―な作品、30年代ラジオの音楽つき朗読劇を生のオーケストラ演奏会で2曲、鑑賞することができたことである。音質の悪い録音は、一部公開されていたが、新録は当然無く、全貌は不明であったが、この演奏会で明らかになった。A Shropshire Ladは後の映画The Kentuckianに引用されている。The Kentuckianに関しては、すでに新録が2回されており、主題曲につては、すでに馴染みの内容であるが、本曲はその主題の一部を引用、その後、ハーマン特有の牧歌的抒情表現と朗読が効果的に続く。The City of Brass はこれとは対照的にハーマンのダイナミズム表現が炸裂する逸品である。冒頭の主題はJason and The argonauts のTriton や,7th voyage of Sinbadの一部に転用された原曲であり、両映画に共通する異国情緒かつミステリアスな雰囲気と劇的展開を凝縮して楽しめる構成となっていた。最後にNocturne and Scherzoであるが、この作品も、録音がない、超レア―作品である。前半のNocturne は小品Silent Moonに見られる夜想を共通素材としおり、ハーマン特有の情緒表現を、さらに楽しむことができる。後半のScherzoは、Jason and The argonauts のScherzo macabre に転用されており、ほぼ同一の印象を受ける。最後は北北西のOvertureで締めくくった。ハーマン音楽を十分堪能できる素晴らしい演奏会であった。